02. 逸らした視線の行く先 |
ふっと逸らされる視線。 さりげなく合わないフィルズの視線に、レキシスは内心ため息を吐いた。 他人がいる時はまだ良い。 だが、二人きりになるとそれは明らかだった。 これで気づくなという方が無理なほど――。 それが数日前からずっとだ。 原因は考えなくてもわかる。 問い正さなくても身に覚えはあったのだ。 レキシスがひとつだけ確実に言えること。 それはそろそろこの状況も我慢の限界だ、ということだけだった。 「フィルズ、拗ねるのもいい加減にしてください」 レキシスがそう言えば、フィルズの顔が怪訝なものに変化する。 「何のことだ?」 訊き返す声も心底訝しげに思っているように聞こえた。 もしこの様子を他人が見聞きしたならば、レキシスの言い分は訳のわからない言い掛かりのように聞こえるだろう。 だが、やはりフィルズがレキシスに向ける視線は確実に逸れていた。 これが無意識の行動なはずがない。 扱っていた案件を放り出したレキシスがフィルズの前まで移動し、おもむろに両手を伸ばしてその頬を挟み込む。 そうして逃げられないように固定し、彼の顔に自分の顔を近づけた。 唐突なその動きにフィルズは抗うことも忘れ、レキシスを真っ向から見つめる。 驚きに見開かれた碧眼には、困ったような表情をしたレキシスの姿が映っていた。 「……やっと私の方を見ましたね」 レキシスの安堵したような小さな呟きに、 「……おまえが向けさせたんだろうが」 フィルズが最後の悪足掻きのようにボソリと呟き返した。 「それでも。ここ数日のあなたの態度はかなり堪えましたから」 レキシスの顔に浮かんだ力無い微笑みに、フィルズは虚を突かれたような顔になった。 「あなたの視線の先に私以外の者を入れたくないなんて、そんな不可能なことは言いません。けれど、可能な限り私はあなたの視線の先にありたい。そう思うのは我が侭ですか?」 二人の関係は変われども、長い付き合いだ。 レキシスが本気でそう言っていることぐらいわかる。 フィルズは多少の意趣返しぐらいにしか考えていなかったのだが、予想以上の効果を生んでいたらしい。 その事にやっと気づき、今度はフィルズの方が困ったような表情になった。 二人は間近で顔を突き合わせたまま、しばし無言でお互いを見つめる。 「この先も俺がおまえを拒絶することはない」 沈黙を破ったフィルズがばつが悪そうな表情で言った。 そして、しばし視線を彷徨わせた後、まっすぐにレキシスを見つめ、 「……今回の事は単なる照れ隠しだ」 それは小さな声で早口にそう捲し立て、彼が口を開く前にその口を己のそれで塞いだのだった。 |
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修正 2012/01/15 お題『壊したくなる5つの衝動』 |