求婚

求婚 <18.5>

触れる唇は熱く、頭の後ろに添えられた烙の手は聖が逃げることを許さない。
口腔に侵入した舌は余す所なく蹂躙し、不慣れな彼の怯えて逃げる舌に絡みつく。混ざり合った唾液が口内を伝い、飲み込まされるそれは甘美な蜜の如く彼を満たして酔わせた。

甘くて、熱くて、どうにかなりそうだった。
けれど、満たされたようでまだ足りない。

一度覚えてしまった飢えは、聖の理性を簡単に突き崩す。

烙の肩に添えられていた腕は彼の首へと回り、聖は熱に浮かされたように、一度は離れた唇を追うように自ら重ね合わせる。
彼の口腔を本能の赴くまま探り、焦らすようにほんのり撫でるだけで離れていくその舌を追いかけては絡みつける。
「……ッはぁ」
ほんの少し離れた唇から、艶めかしい吐息が零れ落ちた。

口付けに気を取られている聖は、目を開けた烙がその媚態を見ていることにも気づかない。彼の右手がそっと動き、聖のシャツのボタンを外していた。
たくし上げられたアンダーシャツの隙間から烙の右手が侵入し、やんわりと右胸を揉みしだく。密やかに存在する、まだ柔らかい突起を手の平で執拗に擦れば、烙の思惑通り次第にそれはしこりを見せた。

「…ゥんッ ? 　ぁッ――」

自身の身体に感じる妙な感覚に、聖が目を開き唇を離す。そのタイミングを見計らうかのように、烙が赤く色付く飾りを摘み上げ、ひときわ強く擦った。
痛いような、むず痒いような。
背筋にぞくりと何かが走る感覚に聖は思わず声を上げ胸を反らし、抱えていた烙の頭を反射的に抱き込む。
烙は愛撫され赤く実った果実をそのまま口に含み、舌で押し潰した。

「ちょッ……、い、あァ…はぁ」

いつの間にか開けられた服。さらされた頼りない胸板の上で主張する、擦られて赤くなった飾りに唇を寄せてチロリと舐める烙の姿。

顔がほんの少し上げられ、琥珀色の瞳が聖を捕えた。
欲情を如実に映した瞳が細められ、弧を描く口からのぞく赤い舌が、互いの唾液で濡れた唇を見せつけるように舐める。
その姿はまるで肉食獣が狙った獲物を頂く前に、舌舐めずりするかのようで。

それを目にした彼は、下肢にゾクリと熱が集まるのを感じた。

「自覚したな ? 」

先程とは違い確認するような問い掛けに、聖は烙から顔を背ける。
なんでこんな風になっているんだろうと、混乱する頭で考えるが答えなど浮かぶわけもない。艶めかしい烙の姿が脳裏に焼き付いて、思考を巡らす邪魔をする。
彼の赤くなった耳朶を、烙は口に含んで舐り。

「自覚、したな ? 」

耳元で再び同じ問いを囁けば、少しだけこちらを向いた彼が快楽に潤んだ瞳で烙を睨みつけていた。
それをまっすぐ見つめ返し、問いの答えを無言で待つ。
求める答えは、彼の口から言葉として零れ落ちることに意味があった。

「……馬鹿」

しばらくして無言の要求に耐えきれなくなった聖が、拗ねたように小さな呟きを残して再び自ら唇を重ね合わせる。

言葉では答えてくれない、か。

普段の態度からもわかるように、羞恥心の強い彼の口からその心を言葉で聞きたいと思うのは、己の我が侭だと烙は知っている。
態度で示され、この場から逃げ出さなかっただけでも、今は良しとするべきだった。この先、訊き出す機会はいくらでもある。

このまま聖と交わってしまいたい衝動は尽きない。だが、そこには烙が躊躇う理由が一つだけあった。

あまりうれしくないモノが発生する可能性が一つ。
ただ確実とは言えなくとも、それの回避方法はある。

だが、もしもを考えるとまだ避けたい。
今はまだ、その時ではないと本能が告げていた。
それでも許容の範囲内で、もう少し彼を味わうくらい良いはずだと、甘い唇を味わいながら烙は内心笑う。

聖は安定を求めるように体勢を変え、唇を合わせたまま烙が己の都合の良い体勢になるようにそれを手伝った。結果、覆いかぶさるように正面から向き合い、身体を跨ぐような姿勢になる。
下腹に溜まる熱を無意識に、烙の下腹部にゆるゆると擦りつける動きをするものだから、彼のそこにも自然と熱が溜まった。

烙は聖のジーンズの留め金を外し、ジッパーを下ろす。下着の上からやんわりと熱を持ったそこを撫でれば、聖が口付けを解いて熱い吐息を吐き出した。
「はッ　な、に ? 　……あつッ」
快楽に潤んだ瞳が烙の瞳を覗き込む。
言葉とは裏腹に、下腹部を烙の手に擦りつける動作をする乱れた姿と色香に、彼はいっそう己のそこに熱が溜まるのを感じながら、下着の中へと手を滑り込ませ、直に熱くなったそれをやんわりと握って確かめる。
「……あッ――」
ビクンと直接的な刺激に震えた身体。
だが、快楽に震えながらも戸惑うような表情を見せた聖に、烙は問い掛ける。

「初めてか ? 」

今まで聖が見せた反応はあまりにも無垢で、何も知らないようだった。
口付けにすら初めは拙く、応えることすらままならない様子だった。それを鑑みると今のこの状態は本能の赴くまま、快楽を貪っているだけではないか。
そんな気がした。

この手の行為は身体の生理反応で、感情が伴わなくとも気まぐれに行える。
この手法から相手の精気を取り入れ、己の糧にすることができると烙は知っていたが、それを聖が知っているとはとても思えない。
そして、どれほど生きていようと、彼の関心の内にこの手の行為は皆無だったろうと推測できる。

完全には消えていないらしい羞恥心と理性が、聖の瞳に戸惑いと共に浮かぶ。
「し、らッなぁ、ッ、い」
身体が熱くて、その中でも特に熱い中心を本能のままに烙の手に擦りつける。
「からだ……はッ…あつい、し、へんな、とこッも、あつい、し…なぁ、に…… ? 」
途切れ途切れに吐き出された言葉に、烙がわずかに目を見開く。
「自慰もやったことがないのか」
「じ、い ? 」
言葉の意味を理解できていないらしい聖の姿に、手の中の彼の中心を少し強めに扱く。グンと固くなったそこと口から零れた嬌声に、彼がしっかりと感じていることを理解して烙は妖艶に笑った。

聖は本当に何もかもが初めてなのだ。
完全にまっさらなのだと思うと、烙の心の内で歓喜がわき上がる。

「ここを自分の手でこうやって慰めることだ」
実地で教えるべく彼の手を取り、熱を持った中心へと導く。触れた瞬間、驚いたように離そうとした彼の手を、上から己の手を重ね合わせることで防ぎ、烙はそのままそれをギュッと握った。
「やッ」
聖は下肢を襲う、痺れるような感覚に声を上げて抗う。
手の中のそこは自分の一部だとは思えないほど熱くて、烙の手が自分の上から重なってそこを擦り上げるたびに妙な感覚が身体の中を突き抜けた。

それが快楽だと、聖の本能が告げる。
徐々に固くなり、手の中で自分の戸惑いなど関係なくそれは形を変えていく。頭をもたげ、怒張し、赤黒く変化したそれの先端を擦られ、そこからジワリと滲みだした液が滴り、手を濡らして卑猥な水音を立てる。
絶えず己を苛む快感と羞恥で、どうにかなりそうだった。

「やめッ、ぁあん」
静止の声を上げる途中で、いっそう強い刺激を与えられ、思わず上がった嬌声に聖は唇を噛む。
「別に恥ずかしがることはない。男なら触れればこうなる」
烙の顔を見れば、彼はひどく楽しそうに笑っていた。
「あんた、も ? 」
「ああ」
グリッと下から突くように押し付けられたそこは、服の上からでも分かるほど盛り上がり、熱を伝えてくる。
聖は無意識に息をのみ込み、コクリと喉を鳴らしていた。
「興奮すれば勃起するし、触られれば気持ち良い。快感が極まれば―― 他種族でいう射精と似た現象が起こる。そういうものだ」

それで相手が女性の場合、妊娠するかといえばそういうことには絶対ならない。
ウイの一族の生態は、他種族とは根本的なものが違う。
一族は子孫を残すために身体を重ね合わせるのではない。伴侶と出会う前、気まぐれに伴侶以外と身体を重ねることもあるが、この行為は本来、伴侶と魂を繋ぐための行為でしかない。
互いの存在を深く確かめ合い、より身近に感じるための行為。
それの副産物が子供、というだけだ。

烙は事実を聖に淡々と言葉で説明する。
知らなければ、教えればいいだけの話だ。逆に何も知らないからこそ、自分の色に染め上げることもできるというもの。

聖の中心を扱く手を止めて、烙は彼の動向を静かに見守る。

聖は烙の手から己の手を取り戻すと、両手を使って烙のスラックスの留め金を外し、ジッパーを下ろした。そして、下着から彼の中心を取り出して、己の手の中にある存在感を主張するそれを思わずマジマジと見つめる。
「おっきい」
思わず自分の口から零れ落ちた言葉に、聖は首筋まで赤く染めた。
その姿に烙がクツクツとおかしそうに笑う。

「気は済んだか ? 」

余裕があるように見える烙だったが、聖の手の中では彼の中心もまた頭をもたげて、赤黒く怒張し、その存在を主張していた。
「俺だけ、ずるい、から」
燻る熱に身体を震わせた恥ずかしそうに呟いた聖を、烙が艶やかな笑みを浮かべて見る。
「では、一緒にイクか」
己の中心と聖のそれを触れ合わせて、彼の手ごと一緒に上下に擦り上げる。

自分以外の熱と、物慣れない聖の手の感触。
彼の口から零れ落ちる嬌声と熱い吐息。
そして、快楽に染まり色気を帯びた彼の表情と無意識に揺れる腰。

「よくやり方を覚えておけ。自分だけでもできるように」

どれもが烙の快楽をいっそう深める要素である。そして――。
烙のその台詞に呼び覚まされ、聖の瞳に吹き飛んでいた羞恥と怒りが浮かぶ。
その瞳に宿る正気すら、すべて己の与える快感で染め上げたいと烙は思う。

先走りに濡れた鈴口を指の腹で擦り上げれば、聖の瞳が蕩けるのが分かる。半開きの口を伝った唾液を舐め取り、そのまま唇を滑らせて鎖骨で一度止める。きつく吸い上げれば、己の証のようにそこに赤い花が散った。
しっとりとした肌に唇を滑らせ、そのままいくつもの花を散らせていく。
「ぁぁ、んッ……」
悩ましげな声を上げた聖の中心を己の熱と一緒にひときわ強く上下に扱き、その鈴口に軽く爪を立てる。胸をそらされ突き出された赤い果実を、烙はカリッと甘噛みした。
「――ッ……はぁ、あぁぁ……ッん」
ひときわ高い嬌声が聖の口から上がり、緊張した身体から力が抜け、中心から吐き出された白濁とした液が烙の腹と手を汚す。だが、彼はまだ手を緩めずに、固い己の分身と力を失った聖のそれを擦りつけ扱く。

イッた瞬間の強烈な快楽に、聖が恍惚とした表情を浮かべていた。
烙の手からいまだに伝わる刺激に身体を震わせ、その全身から壮絶な色香が溢れ出す。とろんとした青色の瞳で烙を見た聖が、ふわりと笑った。
無垢にも、妖艶にも映る笑顔に当てられ、際まで達した烙が聖の手に擦りつけるようにして白濁を吐き出す。

「末恐ろしいな」

深く息を吐き出し、烙は呟く。視線の先では、聖がキョトンとしていた。そんな姿も普段あまり見られるものではないが、先程のあの表情は正気の彼からは絶対に引き出せそうにない。あの顔にイカされてしまった。
初めてであの反応なら、この先、どう変わっていくかかなり楽しみだ。

「きれいだ、聖」

余韻に浸りながら聖の米神に口付け、烙は呟く。
イッった後に見せた恍惚とした表情も、先程の浮かべた笑顔も、きれいという言葉で称するのが相応しい。
それが烙の正直な思いだったが――。

「……あんたの目は節穴か ? 」

やっと正気に戻ったらしい聖が恥ずかしそうにしながらも、呆れたような顔で烙を見ていた。
どうやら普段の彼に戻ってしまったらしい。
これはこれで烙を楽しませてくれるからかまわないのだが、先程の言葉は少々彼にとっては心外だった。
「あの瞬間の表情は、きれいだと称する方が相応しい。普段はかわいいと思うがな」
それらの台詞はすべて、嘘偽りのない正直な思いだ。だが――。
「それはあんたの目が腐ってるよ、絶対」
ポカンとした聖が瞬きを頻りに繰り返した後、口にした言葉は先程よりもひどい全否定だった。
どうやら聖は己の容姿にも無頓着で、鈍いらしい。
今更ではあるが、そのことにも気づいた烙は小さくため息をつく。

「風呂にでも入るか」

己も聖もほとんど衣服を身に付けたまま事に及んだせいで、所々に飛び散ったあらぬ液が着衣を汚している。着替えるのは当然として、どうせなら身体に付着したそれらを拭き取るよりも、お湯で洗い流した方がさっぱりするはずだ。
手早く己の着衣を直した烙が、あたふたとしている聖を抱いてそのまま立ち上がる。抵抗を物ともせずに、彼はそのまま浴室へと向かったのだった。

風呂に入るために衣服を取っ払い、現れた裸体を目にして、ただ身体を洗うだけで烙が満足するはずもない。
攻防の末に全身を彼に洗われてしまった聖は、その最中から性感帯を刺激され、焦らされ、弄られ……風呂を上がる頃には、ぐったりと元凶に身体を預けるしかない状況に陥っていた。

それを甲斐甲斐しく世話する烙。
彼の顔がひどく満足げで、楽しそうだったのは言うまでもない。

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2012/04/15
修正 2013/12/29

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