地の先導者 <序章> |
これは遠い昔の史実。 カイナは初め、二人の神を生み出した。 生み出された対の神の名は、メイシアとシンリア。 後に、メイシアは大地の神メイ・ディクスと呼ばれる者。 メイシアは多くの命を大地に誕生させ、その生を見守る役割を担い、己も多くの命と同じように有限の肉体を持ち、肉体の生と死を繰り返す。 それに対し、シンリアは大地に生まれた多くの命が死した後の魂に安息を与え、また大地に生まれ変わるまでの間を見守る役割を担い、己は不老不死の肉体を持った。 そうしてどのくらいの歳月が過ぎ去ったのか。 ある日。 二人の神の前に異界の者が現れた。 その者は後に月の女神ルー・ディナと呼ばれる者。 その名をルーシェと言った。 ルーシェは長い時を二人と共に過ごし、次第にメイシアに惹かれていった。 それはメイシアも同じで、想い合う二人は恋人となる。 だが、メイシアとルーシェの関係が変わろうと、シンリアは今までと変わりなかった。 シンリアにとって、二人は兄であり姉であり弟であり妹であり、それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。 そうしてまた月日が経ち、メイシアとルーシェの間にいくつかの新たな命が生まれる。 その命達は人として生を受けた。 そんなある日。 唐突にシンリアが人間になりたいと言い出した。 理由を問えば、人間の娘を伴侶に迎えたいからだと言う。 人と神。 二人の間に流れる時間はあまりにも違いすぎた。 不老不死の肉体を持つシンリアにとって、人の生などほんの瞬きほどの時間でしかないのだ。 自分勝手な望みだとわかっている。 それでも娘と同じ時を歩みたいと。 神の器を捨てて、娘と一緒に人として生きたいとシンリアは訴えた。 その強い想いに、カイナはシンリアの望みを受け入れる意向を示した。 ただ、そのためには問題もあった。 急に魂の安息を見守る神が消えれば、たちまち世界は混乱する。 メイシアが絶対の神であるように、シンリアもまた絶対の神だった。 どちらが欠けても、世界は混乱して成り立たなくなる。 そこにルーシェが願い出た。 自分がシンリアの役割を引き受けると。 そうしてルーシェは神となり、シンリアは人となった。 カイナからシンリアという名の神は消えた。 今はほんの一握りの者しか知らない、古の神。 シンリアが人間となり、その後、どのような生を過ごしたか。 消えた神の名同様、それは知られていない。 |
************************************************************* 2008/01/05
|