粉雪



薄曇りの空からついに降り出した冬の訪れ。
ちらちらと揺れながら地面に落ち、溶けて消えていく光景を見ながらスーリャは手を擦り合わせる。
「道理で寒いと思った」
小雨が雪になるぐらいだ。
寒くて当然。
けれど、震える身体とは裏腹に彼の心は弾む。

カイナでは初めて目にした雪。
元の世界でもスーリャの住んでいた地域ではあまり雪が降らなかった。そして、降っても積もることはほとんどなく、もし積もったとしても一、二センチという――。
雪とは縁遠く、子供の頃は雪が降るのが物珍しく嬉しかった覚えがある。
今はもう子供のようにはしゃぐことはないが、それでもスーリャにとって雪とは煩わしいものではなく、わくわくするものでしかなかった。

それも雪による様々な弊害が、完全に他人事で済んでいたからなのだけれど――。

「ああ。ついに降り出したか」
後ろを振り向けば、そこにはシリスがいた。
はらりはらりと粉雪が二人の間を通り過ぎていく。
そっとスーリャを引き寄せ、後ろから抱き締め、シリスは灰色の空を見上げる。

「……寒いな」

ぼそりと呟かれた言葉に、スーリャは苦笑した。
同じように空を見上げ、
「寒いなら外まで出てこなければいいだろ」
笑み混じりに言った。
「冷たいな。なかなか戻って来ないからわざわざ迎えに来たというのに」
どことなく拗ねた声の響きに、スーリャは後ろを振り向く。
そこには声と同じく拗ねた子供のような表情をしたシリスがいた。

「……こうやって引っ付いていれば温かいだろ?」

シリスの腕の中、彼に背中を預け、スーリャは呟く。
その視線はまた空へと、はらりはらりと舞う粉雪へと向いていた。
「きれいだけど……少し哀しい」
積もることなく地面に溶け、消えてしまう雪。
その光景はとても儚い。
「……そうだな」
その返事はどちらの言葉に対する答えだったのか。
スーリャを抱くシリスの腕に、先程よりも少しだけ力が込められる。

離さない、とでも言いたげに――。

そうして二人、降り止む気配のない粉雪をしばらくの間、無言で見つめていた。





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長らくWeb拍手お礼に置きっぱなしだった小話……。
2009/11/29
修正 2012/01/31



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