目覚め(シリス視点)



それはまだ薄暗く、夜の帳が明ける前のこと。
一番鳥も鳴く前の、まだ夜の静寂を色濃く残す時間。

シリスの朝はいつも早い。
そして、習慣というものは一度ついてしまえばなかなか崩れないものだった。

今日は久しぶりに勝ち取った休日。
仕事を忘れ、朝寝坊しようと誰に咎められることもない。だというのに、いつもと同じように目が覚めてしまった。
そんな自分に苦笑しつつ、いまだ深い眠りの底にいる隣の温もりを確かめる。
スーリャの唇からは、静かな規則正しい寝息が聞こえてくる。その顔はとても穏やかで、そっと抱き直し枕に散った黒髪を梳けば、ゆっくりとそこに小さな笑みが浮んだ。
彼の唇が声にならない単語を紡ぎだし、また規則正しい寝息が聞こえてくる。
その唇が形作ったのは、シリスの名前で―― 彼の顔には自然とうれしげな笑みが浮び、そっとスーリャの額に口付けを落とした。

夜明けにはまだ早く。
この穏やかな時を壊すには忍びない。
腕の中の愛しい温もりと聞こえてくる寝息に、いったんは覚めたはずの眠気がシリスに戻ってくる。

あと少しだけこのままに――。

明けない夜はないけれど、今はまだ闇の時間。

薄暗い室内に微かな二つの寝息が重なり合う。

目覚めの時には、まだ早い。



そうして次にシリスが目覚めた時。
一番初めに彼が見たのは、愛しい蒼色の瞳だった。





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目覚め(スーリャ視点)とセット。仕掛け付きで一話だったものを、仕掛けを無くして分割にしました。
2007/12/10
修正 2012/01/30



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