目覚め(スーリャ視点)



隙間から注ぎ込む陽の光を受け、スーリャはゆっくりと眠りから目覚める。
それが彼の一日の始まり。
けれど、今日はなんだかとても温かくて、気持ち良くて、このままもう少しだけ眠っていたい。
そんな気持ちになった。
いつもと同じはずなのに、どこか違う。
まどろみながら、スーリャはうつらうつらと考え――。
ぱちりと目を開けた。

え?

上げそうなった声を押し止め、自分の置かれた状況を覚醒した頭で確認する。

自分を包み込むように抱き締める腕。
すぐ側から聞こえる規則正しい寝息。

それらはシリスのもので―― ひどく珍しい状況にスーリャは困惑した。
別にシリスと抱き合って眠ることはそう珍しくもないのだが、彼の眠る姿を見るのはもしかしたら初めてかもしれない。
いつもシリスはスーリャより遅く眠り、陽もまだ昇る前に起き出す。
それが彼の普通で、スーリャが起きる時間まで眠っていることなど今まで無かったのだ。

そんな彼がまだ、穏やかに眠っている。
起こさないようにそっと態勢を変え、スーリャは眠るシリスの顔を覗き込むように見つめた。いつもやさしい色を湛えて彼を見つめる金色の瞳は、当然ながら閉ざされたまま。
こうして改めてマジマジとシリスの顔を見つめてみると、不思議な感じがした。
シリスなのにシリスじゃないような。
瞳が閉ざされているだけなのに、彼が違う人のように思えて……。
早くその瞳を開けて、自分を見て欲しい。

スーリャは不安に促されるように、シリスの頬に手を伸ばす。
そっと触れて撫でれば、彼の目蓋が震えた。
ゆっくりと現れた金色の瞳はぼんやりとスーリャを見つめた後、やさしい色を湛える。

「……おはよう」

ゆっくりと紡がれた言葉と浮かべられた笑みに、スーリャも自然と顔を綻ばせる。
「おはよ」
そっと引き寄せられ、触れた唇。
それは啄むように何度も繰り返され、段々深くなる。
「……っ…、ちょ―っ―」
流されたらまずい。
本能でスーリャは悟り、シリスの胸を押し返す。
けれど、起き抜けの状態でそれほど力が出るはずも無く――。

「――ッ、はぁはぁ」
解放された時には力は抜け切り、息は切れ切れになっていた。
清々しい朝には似つかわしくない甘さが身体を満たそうとしている。けれど、それを意思で捻じ伏せ、スーリャはシリスを睨みつけた。
「蒼夜、それは逆効果だ」
余裕綽々といった感じで苦笑したシリスが、スーリャの額に口付けを贈る。
「このまま一日ベッドの中で過ごすのも魅力的だが――」
冗談じゃないといいだけなスーリャの瞳を、シリスは悪戯気な笑みを浮かべて見つめ返して言った。
「せっかく勝ち取った休みだ。少し遠出しないか?」

目を大きく見開き、スーリャは口を開いたり閉じたりの動作を繰り返す。
「……休み?」
やっと出てきた言葉は、口に出しても半信半疑な問い掛けだった。
王さま家業はものすごく忙しい。
朝早くから、時には夜遅くまで。
途中に多少休息を入れるとはいえ、スーリャからすれば普段のシリスは働きすぎと言っても過言ではなかった。
心配ではあったが、手伝えるわけもなく。
スーリャにできたのは、疲れて戻ってくる彼を出迎え、傍にいることだけだった。

「そうだ。今日は一日中蒼夜といられる」
撫で梳かれる髪の感触に目を細め、スーリャは問い掛ける。
「遠出ってどこに行くの?」
シリスは微笑み、
「着いてからのお楽しみだ」
もう一度、スーリャに軽く口付けてから起き上がった。
「きっと蒼夜も気に入る」
意味深な言葉と笑みを残して身支度を始めたシリスに、スーリャはすっきりしない気分を吐息とともに吐き出し、自分もまた身支度をするためにベッドから下りたのだった。





*************************************************************
目覚め(シリス視点)とセット。仕掛け付きで一話だったものを、仕掛けを無くして分割にしました。
2007/12/10
修正 2012/01/30



novel


Copyright (C) 2006-2012 SAKAKI All Rights Reserved.