求婚 < 蛇足 2 >



互いの身に付ける服すらもどかしく、二人はそれぞれ本能の赴くまま脱がせ合い、素肌を触れ合わせる。
「この身に触れることができるのは俺だけだ」
下腹へと手を伸ばして愛撫し、さらされた首筋を甘噛みした烙が囁く。彼から与えられるゾクリとした感覚に聖は身をよじり、その顔に苦笑を浮かべる。
「あんた以外に誰がこんなこと俺にするんだよ」
そう告げる声は甘く、その手は宥めるように烙の髪を梳く。

「……そうだな。おまえの愛らしい姿は俺だけが知っていればいい」
機嫌良く笑った烙の言葉に、聖は頬を赤く染めた。
「あんた、やっぱ馬鹿だな。それに目が腐ってる」

ことある毎に烙は聖にそう告げる。けれど、聖のことをそんな風に言うのは彼だけだ。
告げられるたびにこうして否定しても、その考えを改める気はないらしい。そんなやり取りを繰り返す内に、彼のそういう言動にもある程度慣らされてしまった。だからか、憎まれ口を叩いても本心では悪い気はしていない。

烙の手は軽く撫で触れるだけで、明確な刺激を与えてくれない。それがもどかしくて聖は彼に噛みつく。
「なあ、俺を焦らして楽しいか ? 」
大腿に当たる烙の中心は熱を持ち、ほんの少し頭をもたげ始めている。それでも彼は素知らぬ顔で、聖を焦らすように同じく熱を持つ彼の中心には触れるとことなくきわどい部分を愛撫するだけだ。
「楽しい……といえば、楽しいな。焦れれば焦れるほど、おまえは乱れて自ら俺を求めるだろう ? 」

楽しげに答えられ、訊いたことを後悔した。
一度火が付いてしまった身体は、普段の彼の意思すら奪っていく。羞恥心はあっても、それ以上に烙を求めることを、彼から与えられる快楽に酔うことを止めることができない。

烙の背を引き寄せるように手を伸ばし、その背を確かめるようになぞる。浅ましく彼に自ら腰を擦りつけ、もたらされる緩慢な刺激に聖は小さく息を吐き出した。
その様を烙が見ているとわかっていても、聖は己の行動を止められない。それだけでは足りない。
烙の背を撫でていた右手をそろそろと滑らせ、擦り合わされている熱の塊へと手を伸ばす。けれど、その手は触れる前に彼の手によって絡み取られてしまった。

邪魔されたことに、聖はほんのりと潤んだ瞳で烙を睨みつける。
「俺の楽しみを奪うな」
妖艶に笑った烙は笑み含んだ声で囁き、聖の唇に軽く触れるだけの口付けを残してすぐに離れる。聖が物足りなさに烙を引き寄せる前に、烙は絡んだ手とは別の手で聖の中心を掴み、荒々しく扱いた。
「……ッ」
そこからもたらされる直截な快感と急激に溜まった熱に、聖は詰まった息をゆっくりと逃がすように吐き出す。

「おまえが自らの手で乱れる姿を観察するのも楽しくはあるが、そうすると今日は俺が持ちそうにない」

そう告げるわりには烙の顔はどこまでも涼やかで、余裕がありそうに見える。
聖の視線を意味ありげに見返した烙は、そのまま彼の視線の先で芯を持った中心の先端に口付けを落とす。
驚きに目を見開いた聖は、次の瞬間、耳朶まで真っ赤に染め上げた。その様を満足げに見た烙は、口腔へとそれを咥え込む。

視覚がもたらす倒錯的な快楽と、温かな粘膜に包まれ唇と舌で愛撫される直截な快楽に、聖は烙の頭へと手を伸ばす。
引き離したいのか、それとも引き寄せたいのか。
急速に高まっていく熱に、聖の手は烙の髪をかき乱す。
「や、めッ……ぁ…」
このままでは彼の口の中に放ってしまう。
鈴口を抉じ開けるように舌で舐められ、強烈な射精感に聖は耐えながら烙の頭を引き離そうと手に力を込める。

その瞬間、二人の視線が交わった。

琥珀色の瞳に浮かぶ獰猛な色。
中心を強く吸われ、根元を絞り取るように扱かれ、聖の我慢は呆気なく崩れた。
「…ッあぁっ……ハァ――――」
ドクドクと吐き出されるそれらを嚥下する喉の動きと、絡みつき余すことなく絞り取ろうとする舌の動きに、聖は赤くなった顔のまま、恥ずかしさで耐えられなくなり目をそらす。
下肢は痺れたような快楽の余韻に浸り、まだ敏感なそこを舐める烙の舌の動きに新たな快感を追い始めていた。

ようやく気が済んだのか、口を離した烙がぬめる唇で弧を描く。
「極上の美酒のようだな」
満足そうに唇を舌で舐め、機嫌良さげに呟く。
それを耳にした聖は、なけなしの対抗心を振り絞って烙を睨みつける。
「目が腐ってる上に、味覚もおかしいだろ」
いくら憎まれ口を叩こうが、快楽に潤んだ瞳と表情で言われても烙は堪えない。
「おまえはどこもかしこも俺を狂わせる。媚薬のようなものだ」

しどけなく開かれたままの足の付け根。
烙の視線の先には、聖の中心のその奥で慎ましやかに存在する蕾がある。前から伝わってきたらしき烙の唾液と聖の吐き出した分泌液に濡れたそこへ、彼はゆうるりと触れる。
聖の身体がビクリと震えた。

「こちらも欲しいだろう ? 」

蕾の入口をゆるゆるとその皺を伸ばすように指で愛撫していた烙が、彼の言葉にヒクリとそれが震えたことに笑みを深くし、ゆっくりと指を一本埋め込んでいく。
絡みつく粘膜と締めつけるその感触に、烙はクツクツと声を立てて笑った。
「待ちわびていたようだな。しっかりと濡れている」
グリッと的確にある一点を突く。ギュッと締め付けが強くなったことに、烙が聖を意味ありげに見る。

「……あんたっ、ホント意地悪だよ、な」

その刺激をなんとかやり過ごした後、聖が拗ねたように口を開く。己の中を押し開き、擦る感触は前を直接弄られるのとは違う快楽をもたらす。
指を増やされ、バラバラに動かされ、内に燻り出す熱に耐えるように唇を噛んだ。
「唇は噛むな」
荒々しく唇を触れ合せ、舌でこじ開けられる。そのまま貪られるように舌を絡まされ、吸われ、蹂躙された。
呼吸すら奪われるような口付けから解放された時には、聖は息も切れ切れだった。けれど、ただ為されるがまま翻弄されるばかりでは癪だ。

熱く固く頭をもたげる烙の中心へと手を伸ばすが、触れるよりも前にその手は彼の手に遮られてしまう。
「ずるい」
自分ばかりが良いように翻弄されるのはずるいと、聖が訴える。けれど、それはやんわりとだがかわされてしまう。
「今、触られたら、おまえの中に収める前にイッてしまう」

己の中からするりと指が抜け出た喪失感とその言葉に聖が気を取られている内に、烙は彼の身体を反転させ尻を突き出させる体勢を取らせた。
蕾の入口に当てられた熱い塊の感触に、聖は文句を口にする間もなく息をのみ込む。
「さすがに中でイクわけにはいかないが、おまえの中にこれを収めなければ、今日は静まりそうにない」

どんな表情でそんな台詞を囁いているのか。

聖がそれを確かめる間もなく腰を固定され、熱い塊が彼の中へと侵入してくる。指とは比べ物にならない圧迫感と熱量に、それを逃すように聖は息を吐き出した。

苦しい。だけど、うれしい。

胸の内を満たすのは歓喜で、彼をのみ込んだ部分が更に奥へ迎え入れようとうごめく。
「…ッう……」
無意識に力が入り、聖に覆い被さるような体勢で彼の身体を押し開いていた烙が、彼の背で息を詰めて呻いた。背を撫でるその息にすら感じて、聖は更に彼を締めつけてしまう。
「少し、緩めろ」
きつそうな声と宥めるように何度も背に落ちる唇の感触に、聖は意識して息を吐き出し、無駄に掛かった力を緩めた。

この男が今、どんな顔をしているのか確かめたい。

尻に当たる感触に、男のすべてを収めたことを感じた聖の心は、奇妙な満足感を得ていた。それによって、徐々に募っていたもどかしい気持ちが消えていく。

ずっとどこか足りないような気がしていたのだ。
男に呼び覚まされ覚え込まされた快楽は、確かに聖を狂わせた。けれど、本能の部分で何かが足りないと感じていた。
それが今、彼の中に埋め込まれた熱によってようやく満たされた。

ゆるゆると動き出したその感触に追い縋るように、内壁がうごめき絡みつく。
徐々に激しくなる律動に彼の腰も自然と動き、一度は達して力を失っていたはずの中心もまた熱を帯びて固くそそり立つ。
中を熱い塊が擦り上げ、グリッと感じる部分を的確に突き上げるたびに、その口から嬌声が零れ落ちた。

「聖凜」

獣のような熱く荒い息遣いに混じり耳元で真名を呼ばれ、心も身体も歓喜に震える。
情欲と愛しさと喜びと。
色々なものが混在した低く艶やかな声に、聖はいっそう烙を求める。
顔が見えないのは嫌だと、心が強く訴えた。

今、どうしても彼の顔が見たい。

「ッ…ぁ、かお……見、たい」

切れ切れに訴え、身体を穿たれながら必死で体勢を変えようと身動きする。それに気づいた烙が動きを止めて、その顔に苦笑を浮かべた。
「おまえの顔を見たら、そのまま中でイキそうなのだがな」
困ったような声に、それでも聖は嫌々とでも言いたげに頭を振った。
彼はどうしても烙の顔が見たかったのだ。
その意を理解した烙が、仕方ないとでも言いたげに息を吐き出す。

「おまえが望んだことだからな。どんなことになろうと責任はとれんぞ」

低く唸るように呟き、聖の身体を反転させた。急に向きが変わったことで聖の感じる部分をグイッと強く刺激してしまい、烙を強く締めつける。

「あァ……っ」
「くっ……」

互いに与えられた快楽をやりすごして、そっと息を吐き出す。瞳の中に同じ激情を見つけて笑みを交わした。

満たされ、それでもまだ足りないと。
貪欲な獣を宿す瞳。

聖は烙の首へと手を回す。その身体は先程よりも激しく揺さ振られた。
奥へ奥へと抉られ、ギリギリまで抜け出る喪失感を幾度も繰り返し、確実に限界へと押し上げられる。

それなのにもっと欲しいと、心も身体も訴える。
自分を獣のように貪る腕の中の男が愛しくて、狂おしくてどうしようもない。

いっそう深く抉られた瞬間、聖は己を翻弄した熱の塊を思い切り締めつけ果てる。ずるりといっきに抜け出そうとしたそれを内では更にきつく締めつけ、彼の首に掛かった両腕は更に彼の身体を引き寄せた。

「はぁ…ァ……獅烙。あんたが、欲しい……ッ」

耳元で囁く声は甘く掠れ、最奥を満たす奔流に息を詰まらせる。
完全に満たされた幸福感に、聖は酔っていた。けれど、軽い口付けと共に降ってきた深いため息にそれが薄れていく。
「……俺は、責任はとらんからな」
どことなく困ったような囁きに、聖が瞬きを繰り返す。身体の奥から抜け出る感覚に震え、そこからどろりと足を伝う感触に羞恥心が蘇って、気まずそうに烙から視線をそらした。

「中では出さないつもりだったが――」
突如、室内に発生した奇妙な気配に、聖がそちらを見て固まる。
「やはりできてしまったか」

空中に浮いた白い光の糸で紡がれたような繭の中で、赤子が丸まっていた。眠っているのかその瞳は閉じられているが、その中で徐々に成長している様子に聖が烙を見る。
「身体を交えても、中で出さなければギリギリできないはずだった」
この光景を見ても意外に冷静な彼の言い分を頭の中で繰り返し、聖は沈黙する。

記憶に残っている限り、烙はこの事態を避けようとしていた。
それを引き止め、あまつさえ望んだのは聖自身だ。

あのすべてが満たされた幸福感を思い出すだけでも、また身体が疼き出す。
それをなんとか意識の外に放り出し、聖はあまりに冷静すぎる烙に向き直った。
「あれほど拒否していたわりには、妙に達観してるけど……」
そこまで告げてから言い淀む。
言葉に迷って、幼児くらいにまで成長した子供に視線を向ける。

幼いながらも、その顔立ちは烙に良く似ていた。もっと成長すれば、彼とそっくりになるのではないかと思う。
けれど、その髪色はどうやら聖の色を継いだらしく銀色だった。閉じられた瞳は何色だろうと考え、意外に落ち着いている自分に気づく。

「まさかとは思っていたが、思わぬ所で仮説が立証されたからな」
聖にはよくわからないことを烙が呟く。その顔に訝しげな視線を向ければ、その先ではえらく物騒な笑みを浮かべた烙がいた。
前言撤回。
「……絶対に殺すなよ。そんなことしてみろ。一生涯、絶交だからな ! 」
まだ目覚めてもいない我が子の危機に、聖は慌ててまくし立てる。その様子に烙は獰猛に笑った。

「その心配をする必要はない。いや、なくなったと言うべきか」

思わず逃げようとした聖の身体を引き寄せ、烙はその唇を塞ぐ。閉ざされた唇を強引に抉じ開け、侵入して舌を絡めた。
聖の瞳が驚愕に見開かれる。視線の端には、いまだ目覚めることのない子供が繭の中で成長を続けていた。

見られていなくとも、自分達とは別の存在があるこの場でこのまま流され、事に及べるような神経を彼は持ち合わせていない。
バシバシと拒絶するように烙の背中を叩き、身をよじり、抗い、なんとか彼から解放された聖は潤んだ瞳で彼を睨みつける。
「その瞳は逆効果だ」
笑う烙の瞳には、飢えた獣のような情欲が揺らめいている。
「アレなら気にすることはない。目覚めるまで、一日は掛かる」

そういう問題ではないと聖が叫ぶ前に、烙が彼の身体に手を滑らせ上機嫌に告げる。
「おまえのココも、ココも。まだ足りないと言っているぞ」
軽く触られるだけでも、ザワリと身体が震える。蕾からタラリと男が先程吐き出した分泌液が零れ落ちた。
「ココも弄って欲しいのだろう ?  赤く実っている」
触られてもいないのに芯を持っていた胸の飾りを、指の腹で押し潰すように擦られ、聖は息を詰める。彼の中心が再び熱を持ち始めていた。

身体は望んでいる。けれど、心は迷いを捨てきれない。

その想いを彼の表情から読み取った烙が苦笑する。
「それほど気になると言うなら、この場だけ隔離すれば良いだけだ」
二人と彼らが寝ているベッド以外が無くなった空間で、聖が息をのむ。

「まだ足りん。もっとおまえを寄こせ」

抱き上げられ熱い塊が当たったと思ったら、勢いよく奥まで貫かれ、引きずり出された強烈な快感に聖は息を詰める。そこは拒絶することなく、烙を隙間なく包み込み締めつけた。
「…………ぁあっッ!!」
己の体重が掛かり更に奥深くを抉られ、内から苛む熱の塊が大きくなったことに、聖は悲鳴のような嬌声を上げる。

「おまえが望むだけ、俺をくれてやる」

下から突き上げられる感触と、互いの腹の間で擦れる中心と、擦れ合う肌の敏感な部分から伝わる快楽。そして――。

「だから、もっと乱れて俺を求めろ。聖凜」

己の真名を呼ぶ男の声。
そのどれもが聖を満たして狂わせる。

聖は烙の顔を見つめ、艶やかに咲き誇る華のような笑みを向ける。

「獅烙……大、好きぃ」

愛しているという言葉を口にするには、まだ勇気が足りない。それでも烙に求められ続けてきたものを、初めて正直に言葉にして伝える。

一瞬だけ見えた驚いた表情と強引に重ねられた唇。
そして、いっそう深く貫かれ―― 最奥に叩きつけられる奔流。

唇から零れるはずの嬌声はすべて奪い取られ、求められる幸福感に聖の意識は真っ白に染まった。



聖が烙の呟いた仮説の内容を知るのは、ここからおよそ一日後。
それは烙が長の継承を問答無用で、生まれ落ちたばかりの子供に押し付けるという暴挙に出た後のことである。





*************************************************************
蛇足ではありますが、これにて「求婚」は完全に完結です。
お付き合い頂き、ありがとうございました。
2012/04/29
修正 2013/12/29



novel


Copyright (C) 2012 SAKAKI All Rights Reserved.