新しき芽生え



「あのさ……」
ひどく言い辛そうな、困ったような表情をして話しかけるスーリャの態度を、シリスは内心訝しげに思った。部屋を出ていったラシャの様子もいつもと違っていたような気がして、その思いはより強くなる。
スーリャはシリスのそんな思いに気づく余裕もなく、視線をウロウロとさまよわせて落ち着きなく、口を開いては声にならずに閉じるという動作を繰り返していた。
そして、そうしている間にも、彼の顔色はどんどんと赤く染まっていく。
その様子はどう考えてもおかしかった。

「……どこか具合でも悪いのか? それなら無理しないで寝ていた方がいい」
シリスはスーリャの身体を横抱きにして、寝室へと連れていこうとした。
それをスーリャが慌てたように止める。
「違う。いや、そうとも……限らない、けど。そうじゃ……ない。あのさ……」
尻窄みに消えてしまった声と、全身茹蛸のように赤くなっているスーリャに、シリスはため息をつく。様子がおかしいのは確かなので、とりあえずそのまま寝室に運ぶ。
その間、スーリャはおとなしくされるがままでいた。
その態度もまた、いつもの彼らしくなくシリスの不審を増長させたのだが、おとなしくベッドの上で大きめの枕を背に上体を起こすスーリャの恥らう姿に、それは薄れていった。

「……できたみたいなんだ」

やっとスーリャの口から出た消え入りそうな小さな声に、シリスは一瞬呆けた顔をした。
無反応でなんのことかと考える。
その様子をどう勘違いしたのか。
スーリャが顔を俯かせ、ぼそりと呟いた。
「いらなかったか?」
沈み込んだ声と、自身の腹をやさしく撫でる彼の手。
飛び散っていた思考が一つの答えを導き出し、シリスはガシッとスーリャの肩を掴んだ。
大きく見開かれた蒼い瞳と合い、彼は真剣な表情で訊ねる。
「できたって、子供か?」
口から出た声は掠れ、ずいぶんと情けないものだった。けれど、それすら気にならない。
コクンと頷いたスーリャを、シリスは歓喜して抱き締めたのだった。

「ありがとう」
どのくらいそうしていたのか。
少しだけ身体を離したシリスが、戸惑うスーリャに向けて満面の笑みを浮かべる。
その唇に触れるだけの口付けをして、
「蒼夜と俺の子だ。うれしいに決まってるだろ」
当たり前ながらまだなんのふくらみもない、スーリャの腹に手を置く。
「ここに、いるんだな」
シリスのしみじみとした呟きに、スーリャが小さく笑った。
「そうだよ。―― でも、あまり実感ないんだ。俺の中に新しい命が宿っているなんて、不思議な感じ」
腹の上に置かれたシリスの手の上に自分の手を重ねておき、スーリャは戸惑いを顔に浮かべる。

「産んでくれるか?」
シリスの心配げな声に、スーリャは笑んだ。
「不安がまったくない、って言ったら嘘になるよ」
「もし、どうしてもダメなら――」
「それ以上口にするな!」
スーリャに睨みつけられ、シリスは口を噤んだ。けれど、その顔は心配そうに曇っている。
スーリャはため息をつき、
「俺とあんたの子だ。俺がうれしくないわけないだろ? なんのために性別まで変えたと思ってんだよ」
シリスに身を任せ、できるだけ淡々と聞こえるように言葉を紡ぐ。
「産みたい。その気持ちは嘘じゃない。―― シリスは傍にいてくれるだろ?」
スーリャの身を腕に閉じ込めて、シリスは安心させるように笑った。
「いついかなる時も」
重なった視線が、甘く絡み合う。
「この身も心も、蒼夜だけのために」

自然と重なり離れた唇から、どちらともなく甘い息が零れる。
「俺とこの子達のために、だろ?」
小さく笑うスーリャに、シリスは苦笑し、
「ああ、そうだな。……この子、達?」
彼の言葉に、首を捻る。
「……たぶん、双子だから。産まれたら、あんたはいっきに二児のパパ」
衝撃発言に、シリスがアタフタとしだす。
「もう少し成長しないと、はっきりとはわからないけどさ」

おかしそうに笑うスーリャを、シリスは軽く睨む真似をして、
「俺が二児のパパなら、蒼夜は二児のママだな」
しれっとした態度でそう言えば、スーリャが恥ずかしそうに視線をさまよわせる。その様子に満足して、シリスは己の想いを込めるように囁く。

「俺の一番は、いつだっておまえだ」

見開かれた瞳に映る感情に囚われるように、シリスは再びスーリャの唇を奪ったのだった。





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TAKOさまリクエスト、『スーリャとシリスの間に赤ちゃんができる話』です。
意に沿えた話となっているといいのですが、とりあえずこんな感じになりました。続編に組み込む予定でしたが……無理でした。よって、続編の内容に合わせて少し改編しました。楽しんでいただけたら幸い。TAKOさま、リクエストありがとうございました。
2007/06/25
修正 2012/02/01



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