Trick or Treat !



「トリック オア トリート?」
「そう。トリック オア トリート。お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞって意味」
「ほ〜。そんな祭りがあるのか」
好奇心満々な子供のような表情をシリスは浮かべている。
祭りでいいのかな? 似通ったものだろうけど……。
内心首を傾げたが、自分でもはっきりわからないものはどうしようもない。スーリャは楽しそうなシリスの顔を見つつ、
「ただし、それをやるのは子供限定。大人はお菓子をあげる方」
ハロウィンの説明を付け足した。

知識としては知っていても、自分でやったことはないのでスーリャもあまり詳しくない。けれど、冬も差し迫ったこの時期の行事と聞かれれば、ハロウィンが一番初めに浮かんだ。だから、自分にわかる範囲で説明していたのだけれど――。
「そうなのか。それはつまらないな……」
それを聞いてシリスはがっかりとしたが、その様にどことなく何か含むような不穏なものを感じて、スーリャは彼を軽く睨んだ。
「……あんた、いったい何を考えた?」
「別に」
シリスは拗ねた子供のようにそっぽを向いて、だんまりを決め込んだらしくそれ以上何も言わない。

今日のシリスは本当に子供のようだ。
スーリャは小さく息を吐き出し、向かいからシリスの隣へと移動した。隣に来た彼を、シリスは己の腕の中に抱き寄せる。けれど、やはり無言のまま、彼と目を合わせようとしない。
その姿は拗ねた子供そのもの。
「あとハロウィンと言えば、かぼちゃランタンと仮装。仮装は大人も子供も関係なくやるかな。吸血鬼に魔女、フランケンシュタインにミイラ、シーツおばけに……あとなんだろう? とにかく色々なんでもあり、かな?」

小さな変化だろうと見逃さないようにシリスの顔を凝視していたが、反応らしき反応は見られない。
無言でそっぽを向いたまま――。
こんな態度を取るシリスは初めてで、スーリャは困惑もあらわに自分を抱きしめるシリスの腕に手をかけた。
「……そんなにお菓子が欲しかった?」
見当違いだとは思っても他に何も思いつかないし、何がシリスを頑なにしたのかもわからない。

再び、沈黙が二人の間に流れた。
それに耐えられなくなってスーリャが口を開きかけた時、深い深い息がシリスの口から吐き出される。俯いていたスーリャが顔を上げてシリスを見れば、苦笑した彼の顔があった。
「そういうわけじゃないが―― 自分でやってみたかったかもな。イタズラをな」
そこに居たのは、いつものシリスだった。さきほどの子供のようだった彼は、きれいさっぱり鳴りを潜めている。

「それに俺は菓子より、こっちの方が良い」

掠め取られた口付け。
「菓子よりも、よっぽど甘い」
耳元で囁かれた言葉に、スーリャの鼓動がトクンと跳ねる。やさしい笑みを浮かべるシリスの顔を見ていられなくて、スーリャは顔を伏せた。

シリスの方が、よっぽど甘い。
そう。色々な意味で。

赤くなっているだろう顔を隠すために、彼はシリスの胸に顔を埋めたのだった。

Trick or Treat ?





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2007/10/31
修正 2012/02/01



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